昔のインスリン療法は、1日に2回のインスリン注射でした。
しかし、現在は「基礎インスリン」と「追加インスリン」を組み合わせたbasal-bolus療法なので「頻回注射法」で治療します。
これは、1日に何回も注射をする方法で、次のような2つのやり方があります。
- 従来法
- 強化インスリン療法
従来法
「インスリンに生活を合わせる方法」で、ほぼ毎日決められた量のエネルギーや糖質の食事をして、それに対応したインスリン量を注射します。
難しいことは考えずに食事の量や時間をなるべく一定にして、とにかく規則正しい生活を送ります。とてもやりやすい方法で、血糖コントロールが非常によくなります。
一方、不規則な生活スタイルや、生活サイクルの突発的な変化には対応しにくい面があります。日勤と夜勤があったり、飲み会などの行事で食べる時間が長くなり食べる量も増える場合、あるいは食事を抜いてしまう場合など、さまざまな変化があります。
あらかじめ予定がわかっている場合には、主治医と事前に相談しておきましょう。
強化インスリン療法
「生活スタイルに合わせてインスリンを調節する方法」で、インスリン量を自分で調節しながら良い血糖コントロールの維持を目指します。
従来法で血糖のコントロールがきちんとできている場合にステップアップするとよいでしょう。
これは、生活が不規則な人には便利な方法で、生活上のできごとに臨機応変に対処できるメリットがあります。
頻回注射法または持続皮下インスリン注入法(CSII:インスリンポンプ法)と、血糖自己測定(SMBG)を併用して行います。
- 決められたパターンにとらわれずに自分に合ったインスリン療法を考える
- 安定した基礎インスリンを途切れずに補充すること
- 追加インスリンを過不足なく適時に補充すること
- 「責任インスリン」の考え方で自分から能動的に(主体的に)治療する
このような基本的な考え方で、自分自身で良好な血糖のコントロールとQOL(生活の質)を高めていける方法です。
ただし、決められたインスリン量を決まった時間に注射するだけで、生活に合わせてインスリン量をまったく調節しなかったら、頻回注射法またはCSIIとSMBGを行っていたとしても、強化インスリン療法とはいえません。
あくまでも、自分で考え、判断し、行動することが基本です。主治医に報告・相談しながら、あなたオリジナルの血糖コントロール方法を作っていきましょう。
責任インスリンとは?
「責任インスリン」とは「ある時の血糖値に、最も大きな影響を与えているインスリン」のことです。(高血糖を引き起こした犯人:影響を与えた責任がある)
「責任インスリン」をつきとめてインスリン量を調節する方法を「責任インスリンによるアルゴリズム」といいます。
食前および就寝前の高血糖は、次のような原因が考えられます。
(1)朝食前の血糖が高いとき
- 基礎インスリンの不足(就寝前の中間型インスリン、ランタス®、レベミル®)
- 夜間の無自覚低血糖(ソモジー効果)
- 暁現象
- 夕食前の超速効型インスリンまたは速効型インスリンの不足
- 夕食を食べる時間が遅すぎる
(2)昼食前の血糖が高いとき
- 朝食前の超速効型インスリンまたは速効型インスリンの不足
- 朝食の過剰と午前中の補食の影響
- 基礎インスリンの不足
(3)夕食前の血糖が高いとき
- 基礎インスリンの不足
- 昼食前の超速効型インスリンまたは速効型インスリンの不足
- 昼食や午後の間食の過剰
- 夕方までインスリンの効果が持続していない
(4)就寝前の血糖が高いとき
- 夕食前の超速効型インスリンまたは速効型インスリンの不足
- 夕食の過剰
- 夕食前の血糖が高すぎた
- 夕食から寝るまでに時間が経っていない(夕食を食べるのが遅かった)
- 基礎インスリンの不足
食前と就寝前の血糖が高い原因が、基礎インスリンと追加インスリンにあるかどうかを判断して、それぞれのインスリンの量を調節します。
追加インスリンに速効型インスリンを使う場合
速効型インスリンの場合は、毎食前の血糖値と就寝前の血糖値によって、責任インスリンを探します。
- 朝食前の血糖値がもっとも高いとき:前日の就寝前の基礎インスリンの持効型インスリンもしくは中間型インスリンが不足していると考えられる
- 夕食前の血糖値がもっとも高いとき:昼食前の追加インスリンが不足していると考えられる
- 昼食前の血糖がもっとも高いとき:朝食前の追加インスリンが不足していると考えられる
- 就寝前の血糖がもっとも高いとき:夕食前の追加インシュリンが不足していると考えられる
1日の中で、もっとも血糖が高いときがいつなのかを見つけましょう。
速効型インスリンは6時間以上効果が持続するので、昼食前の血糖の責任インスリンは朝食前、夕食前の血糖は昼食前、就寝前の血糖は夕食前の追加インスリン量をまず考えます。
朝食前の血糖に対する責任インスリンは、前日の基礎インスリンを考えます。
いちばん高かった血糖がちょうどよくなるように責任インスリンを増量します。
追加インスリンに超速効型インスリンを使う場合
超速効型インスリンを使っている場合の、食前と就寝前の血糖に対する責任インスリンは、基礎インスリンであることが多くなっています。
それは、超速効型インスリンの持続時間が短いので、しばしば次の食事まで効果が持続していないことによります。
超速効型インスリンの注射量が適正ならば、毎食前と就寝前の血糖値に対する責任インスリンは基礎インスリンと考えます。
食前、食後、次の食前の血糖値を参考に基礎インスリンの量を決めます。
追加インスリン量が適量かどうかを調べる方法
追加インスリンの量は、食前、食間、次の食前の血糖値を参考にして決めます。食事と食事の間に何回か血糖を測ってみるとよいでしょう。
日にちを変えて、同じように測ってみると、追加インスリンの適正な量を見つけやすくなります。
- 追加インスリン量が適正なとき:食間の血糖は普通に上昇するが、次の食前の血糖値が食前とほぼ同様に下がっている
- 追加インスリンが過剰なとき:食間の血糖が食前の血糖と同じでまったく上がらず、次の食前が更に低くなっている
- 追加インスリンが不足しているとき:食間の血糖がとても高く、次の食前の血糖もずっと高いままである
- 追加インスリンが適正で基礎インスリンが不足のとき:食間の血糖は普通に上昇し、次の食前の血糖が食間の血糖よりも高くなっている
インスリン量のコントロール
インスリンは「血糖を下げる薬」ではなくて、「血糖を正常に維持する薬」です。
- インスリンを増やした方がいいかな?と迷ったときは、すぐに増やさずに様子をみた方がよい(慌てる必要はない)
- インスリンを減らそうかな?と迷ったときは、すぐに減らした方がよい
追加インスリンで、食前の高血糖を補正する方法は2つあります。
- 高血糖を補正するための追加インスリンを増量する
- 食前の追加インスリン量は増やさずに、インスリン注射から食事までの時間を延ばす
このことについては、また次回くわしく説明します。
参考資料: 1型糖尿病のインスリン療法 患者さんたちのために
無症候性低血糖:自分のサイン(自覚症状)に気づくには|言葉で伝わる心のブログ 笑顔の看護師 りょうこ
りょうこのつぶやきでした。
では、ごきげんよう。
アイキャッチ画像出典:血糖値を下げるインスリン療法で血糖値を改善 治療効果を高める3つとは