第62回青少年読書感想文全国コンクールの上位受賞作品を詳しく見てみました。
- 文章の構成
- 段落数と分量(行数で表示)
- 評価のポイント
これらについて、まとめました。
*あくまでも、私個人の考えです
- (1)小学校1年生の作品*800字以内(40行)
- (2)小学校3年生の作品*1200字以内(60行)
- (3)小学校6年生の作品*1200字以内(60行)
- (4)中学2年生の作品*2000字以内(100行)
- (5)高校2年生の作品*2000字以内(100行)
- 傾向のまとめ
- 2016年受賞作品集―考える読書―
(1)小学校1年生の作品*800字以内(40行)
<原稿用紙2枚>自由図書「ダンゴムシの親子:まるちゃん、たびにでる」
「まるちゃんだいすき」:全国学校図書館協議会/毎日新聞社
①本文の引用:13行
「うわぁ、ダンゴムシがいっぱぁい。」
というインパクトのある会話文の引用から始まる。
ダンゴムシが自分の生活に影響するのではないかという不安を先生に質問した。
自分で調べてみて、ますますダンゴムシに対する興味がわいた。
②この本を気に入った理由:13行
まっしろなダンゴムシの赤ちゃんを見て好きになり、調べていろいろなことがわかった。
③ダンゴムシの好きなところ:10行
ダンゴムシのからだの特徴が好き。(わかったこと)
④まとめ(おわりに):4行
これからもときどきさわらせてね。
みんなにも教えてあげたいことと、ダンゴムシへの声掛けで締めくくる。
- 冒頭と最後の文章が「会話」
- 自分以外に先生も登場(自分以外の人)
- 自分の気持ちの変化(変化)
- 本を読んでわかったこと(知識)
- 好きになったこと(結果)
- みんなと情報を共有したい(願望)
- ダンゴムシへのお願い(行動)
自分の変化が克明に書かれている。
自分だけでなく、友だちにもこの知識を教えてあげたいと思う社会性と、ダンゴムシへの声掛けが秀逸。
ダンゴムシに対する愛情が伝わる。
(2)小学校3年生の作品*1200字以内(60行)
<原稿用紙3枚>課題図書「さかさ町」
「『さかさ町』を読んで」:全国学校図書館協議会/毎日新聞社
①会話文で始まる:9行
「えっ、何で?ふつうぎゃくちゃうん?」
これは、自分の言葉でもあり、自分が友だちから言われた言葉でもある。
「さかさ」を実生活で体験した事実。
②本の内容:9行
「さかさ」についての説明と、理解できずにドキドキしながら読んだ様子。
③本の内容に共感したところ:8行
④自分の気持ちの変化:4行
本の中の町や登場人物が大好きになって、自分も本の中に入ってみたいほど楽しかった。
⑤今の現実と「さかさ町」の比較:21行
始めは逆さに世界地図を見ると気持ち悪かったが、1週間で慣れた。母親が言った言葉と自分の考えの変化と広がりについて詳しく書かれている。
⑥本を読んでわかったこと:9行
正反対の考え方もどちらも正しいことが実感できて、否定や拒否ではなく相手の立場に立って考えて、そのことを楽しむことした。
- 自分がみんなと違う「さかさ」のことに驚いた経験
- 「さかさ」は理解できず気持ち悪かった
- 読み進んで理解が深まると楽しくて好きになった
- 読書当日のことだけでなく「1週間」かけて行動し変化した事実
- 母親の登場
- 「違う」ことに対する拒絶反応をなくし相手の考えも理解することが重要
普通はここで終わるが、さらに
- そのことを楽しむことにした
という一文が加えられており筆者の変化の大きさが伝わってくる。
「楽しむ」は、「本を読む事」と「反対意見を理解する事」との両方にリンクしている。
題名が「〇〇を読んで」という個性のないタイトルになっているが、内容のよさが際立っている。
あなただったら、どんなタイトルにしますか?
私なら「どちらも真実だから楽しめる」でしょうか。
伝わりますか?
(3)小学校6年生の作品*1200字以内(60行)
<原稿用紙3枚>課題図書「ワンダー」
「わたしにもできる」:全国学校図書館協議会/毎日新聞社
①自分の希望をつぶやく会話文から始まる:4行
②物語の始まりとその時点での自分の考え:11行
新入生の外観に嫌悪感を持っていじめたり避けているクラスメイト達と自分も同じで情けないと感じた。
③登場人物「サマー」の強さと素晴らしさ:10行
④はっと気づいたこと(会話文):3行
サマーに憧れる自分は、「オーガストにはなりたくない」という本音があることに気づいた。自分の中にある「差別意識」に愕然とする。
⑤差別といじめのむごさ:9行
もし自分がオーガストだったら地獄だと想像する。
⑥登場人物「ジャック」の正義感:4行
⑦オーガストとジャックのメールのやり取りの引用:7行
⑧「ワンダー」という題名の意味:10行
⑨自分の決意と信念:2行
- 誰もがそう思うであろう願望
- 物語の中に入り込んで自分の弱さを自覚する
- 憧れの登場人物の1人を紹介
- ここで自分の中に差別意識があることに気づく
- もし、自分だったら・・・といじめのむごさを実感する
- もう一人の憧れの登場人物
- メール文を文中に引用して、心の絆とオーガストの「死にたい」ほどの苦悩を知る
- 人は予期せぬ大きな変化を起こすことができるのだ
- 最後は「 」をつけずに自分の気持ちを語ってしめくくる
冒頭のつぶやきの裏に隠れていた自分のおそろしい本音を吐露したところが最大のポイントであり、物語のエピソードとともに変化してゆく様子がいきいきと描かれている。
本の「あらすじ」をまとめてしまわずに、意味のあるエピソードを切り取って効果的に配置している。
おそらく、下書きはもっと長い文章だったのではないか。
それを推敲して2000字の枠におさめたように感じる。
その苦労が「文章の余白」ににじみ出ている。
⑧の「野外学習」でのみんなの変化に、もう少しインパクトが欲しかったかもしれない。
(4)中学2年生の作品*2000字以内(100行)
<原稿用紙5枚> 課題図書「白いイルカの浜辺」
「『目の前の真実』をみつめて」:全国学校図書館協議会/毎日新聞社
①読後感と穏やかな今の気持ち:4行
②登場人物の状況と自分の重苦しい気持ち:8行
③障がいを持つ主人公2人の絆と変化で心が軽くなった:14行
④家族を捨てた母を批判する気持ちの変化:11行
⑤カラが母親のすべてを受け入れた幸福に自分の心も温かくなった:9行
⑥自然保護を無残に破壊するいじめっ子の父親ダギーへの怒り:10行
⑦自分の真実にはっと気づくがどうしたらいいのかわからない:7行
⑧非道なダギーが受け入れてくれた変化から学んだ事:17行
⑨自問自答し自分の真実を直視する:8行
⑩カラに勇気をもらい決心した:12行
読み進む過程の自分の心と気持ちの変化を、克明に記している。
自分自身の気づき、悩み、気持ちの変化が細かく書かれており、学んだ事と実際の行動の結果をしっかりと書かれている。
(5)高校2年生の作品*2000字以内(100行)
<原稿用紙5枚>課題図書「シンドラーに救われた少年」
「『知らない』ということ」:全国学校図書館協議会/毎日新聞社
①結論=はじめは言葉が見つからなかったがしばらくして気づいた事:11行
②これまでに「ホロコースト」に関して読んできた事の虚しさ:8行
③一章のあらすじとナチスへの怒り:18行
④「同情」ではなく「普通」当たり前の行動を行う勇気:29行
⑤「知らない」ことの本当の意味が「恐怖」の正体であり「差別」の原因:22行
⑥終戦は「差別」の終わりではなかった、「知る」という義務と責任を果たすべき:12行
物事の是非にとどまらず、深くそのことの意味を自分の目線で掘り下げ、はっきりとした意見を述べている。
時間の経過と思考の広がりが、立体的に描かれている作品。
いくつか過剰に誇張した表現が気になるが、あえてそれらを添削せずに応募したことに指導者の意図があるのでは。
傾向のまとめ
全体としては、物語を熟読し自分なりの解釈・理解を持ってその中にわが身を置いて追体験しているという印象。そこから感じることが大切。
そして、本を読んだ直後ではなく、ある程度の時間や日数を経て変化した結果が書かれていることに注目したい。
感想文を書くために本を読むのではなく、読んだから感想が湧いてくるのだということ。
そういう姿勢が、感想文にも如実に現れている。
表現
- 会話文の活用
- 冒頭としめくくりの対比
- 効果的な引用
- 本の「あらすじ」をひとまとめにしない *低学年は別
- 原稿用紙の最後の行まできっちりと書く
内容
- 自分の本音をどこまで深く掘り下げられるか
- 学んだことで、自分がどこまで変れるか(もう一歩踏み込む)
- 物語に入り込む想像力と共感・実感
- 本のどこに影響を受けて気持ちが変化したのか
- 自分の行動と結果
- 意見をはっきりと述べる
2016年受賞作品集―考える読書―
入賞作品集が出版されています。
考える読書 第62回青少年読書感想文全国コンクール入賞作品集
- 作者: 全国学校図書館協議会
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- メディア: 単行本
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2016年の受賞作品は「小学校低学年の部」の作品1つについても分析しています。
- 文頭と文末が「会話」
- 母と弟の2人が登場
- 物語の世界と現実の生活の対比
- 自分の大きな変化
- 主人公ならきっと自分にこう言ってくれるだろうという最後の決めゼリフ
詳しくは、こちらをご覧ください。
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▶読書感想文の書き方4ステップ㊙テク【中学生高校生完全ガイド】
読書感想文が苦手だった子どもが、映画批評家になり「感想文」のプロになりました。
絶対に外せない基礎的なことから、「読書感想文はフィクションだ!」「バレない嘘を上手につけ!」など、学校では絶対に教えてくれない超裏ワザを大公開!
りょうこのつぶやきでした。
では、ごきげんよう。
アイキャッチ画像出典:【第13回】2016年「本屋大賞」TOP10のあらすじや感想など! - 300books