毎年11月~2月の間に大流行するノロウィルス感染症。今年も例外ではなく、自衛隊の施設内で数百人規模の感染が報道されています。
予防するワクチンがなく治療する抗ウィルス薬も開発されていないのに、感染力が非常に強いウィルスなので注意が必要です。
治療のポイントと家庭でのお世話について、わかりやすく説明しています。
- 有効な治療法がない!
- 子どもは、脱水に注意!
- 赤ちゃん・子どもの脱水の症状
- 水分の摂り方の工夫
- 食品のじゅうぶんな加熱
- 衣類や食器、家の中の消毒
- 実際の消毒の仕方
- うがいと手洗いが基本
- ノロウィルスにアルコール消毒が効かない理由
- まとめ
有効な治療法がない!
ノロウィルスに対する抗ウィルス薬は存在しません。ですから、各自の免疫力で自力で治さなくてはならないのです。
通常、潜伏期間は1~2日、症状が続く期間は1~3日程度といわれています。
症状は、激しい下痢や嘔吐と腹痛です。急激に悪化する傾向があります。
けれど、あわてて病院へ駈け込んでも決め手となる治療はないので、自宅で安静にしてじっと治るのを待つ方が賢明かもしれません。
下痢止めを使うと、胃腸の動きを鈍らせるので吐き気が強くなり、ウィルスが長期間体内に居座ることになるので治りが遅れます。
逆に、吐き気止めは胃腸の動きを促すので吐き気を止めるには有効ですが、下痢がひどくなってしまいます。
ですから基本的にはどちらも使わない場合が多いでしょう。
この場合の「吐く」「下痢」は、どちらも悪さをするウィルスを一刻も早く体内から排出しようとする生理的な反応なので、症状は辛くてもさほど問題はありません。
治ってしまえば後遺症もないのがほとんどです。
吐いたり吐き気が続いていると一見辛そうですが、「治そうとして頑張っているんだね」とあたたかく見守ってあげて欲しいと思います。
親が心配してオロオロしていると、子どもはものすごく不安になります。
そうすると辛さが増すだけなので「もう少しの辛抱だからね」と励ましてあげましょう。
子どもは、脱水に注意!
赤ちゃんや小さなお子さんは、水分が摂れなくなると脱水症状を起こします。
これは病院で点滴などの手当てを受けなければ危険な状態といえます。
食事は食べなくてもよいのですが、水分だけは何らかの形で少しずつ補給しなければなりません。
赤ちゃん・子どもの脱水の症状
いちばんわかりやすい脱水症状の目安が「おしっこ」です。
普段と同じような透明~薄い黄色の尿がきちんと出ていれば大丈夫です。
水分が足りなくなってくると、徐々に尿の色が濃くなってきます。
濃い黄色~麦茶のような茶色になったてきたら、病院を受診しましょう。
色が濃くなる前に、尿の量が減って間隔があくようになってきます。
その時点で気づいて水分が補給できれば大丈夫です。
水分の摂り方の工夫
元気な時のように、グビグビ飲めないのが普通です。一気に飲むとガバッと吐いてしまいます。
冷たすぎる飲み物は、胃腸を刺激して吐き気や下痢がひどくなります。できれば、室温か体温程度のぬるい温度の飲み物にしましょう。
飲み物の種類は、特に制限はありません。
母乳、粉ミルク、ジュース類などお子さんの好きなものや欲しがるものを飲ませてかまいません。
ただし、柑橘類のジュースは吐き気を増強させるといわれているので、避けた方がよいでしょう
。ミカン、オレンジ、レモン、グレープフルーツなどの果汁が入っているものは避けるようにします。
その他に、経口補水液や子ども用のスポーツ飲料でもかまいません。
経口補水液は、体調のよいときにはマズくて飲みにくいものです。
ところが、水分不足の状態だと美味しく感じられるので飲んでくれることが多いようです。
その他にも、味噌汁やスープなどの温かい飲み物も、お腹にやさしく塩分が補給できるので、からだが楽になります。
煮込みうどんやにゅう麺などの汁でもいいですね。その時の気分や体調に合わせて、口に合うものを選んでください。
飲み方の基本は、「少量を頻回に」です。
- スプーン1杯飲んだら休む
- 5~10分経ったらまたスプーン1杯飲む
これを根気よく繰り返します。
スプーンをお猪口に変えたり、小さめのコップに半分など、お子さんの年齢に合わせて変えてください。
食事は2~3日食べなくても大丈夫です。
お腹がすいて吐き気がなくて食べたいときには、消化のよいものを少しずつ食べさせてください。
水分を確保しながら絶食するのは、胃腸の安静を保って早く治すコツでもあります。
食品のじゅうぶんな加熱
ノロウィルスは、食材に含まれていて感染することが多いので、調理での加熱が重要です。
85℃1分で感染力をなくせるので、食品内の中心部分まで85℃以上に加熱し、1分以上キープする必要があります。
圧力鍋は、高圧・高温で完璧にウィルスを死なせることができます。
よく煮込んだ料理もいいですね。
鍋などの場合は、生ものをしっかり煮込んでから食べるようにしましょう。
衣類や食器、家の中の消毒
ノロウィルスは、症状が数日でおさまった後も2週間~1ヵ月前後もの間、便にウィルスが混ざっているといわれています。
ということは、本人の症状がなくなっても、2週間~1ヵ月間は「感染源」であるということ。
なのに、手洗いをしっかりやらなければ、どんどん人にうつすでしょう。
そして、ほんの10~100個いれば感染が成立するともいわれています。
ほんの少しでも感染力があるので、治ったからといって油断すると、どんどん感染が広がってしまいます。
家族がうつらないようにするためには、「うがい」「手洗い」の徹底と、使った食器や汚染された衣類、手で触る場所の「消毒」が必要です。
実際の消毒の仕方
ノロウィルスにアルコール消毒は効果がありません。
どうしてもアルコールしか使えない場所には、二度拭きが必要です。
次亜塩素酸ナトリウムが、もっとも有効です。
ハイターやブリーチ、ミルトンなどの商品があります。
出典:厚生労働省「ノロウィルスによる食中毒 食品を扱う方々へ」
http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/dl/link01-01_leaf01.pdf
製品によって塩素の濃度が違うので、それぞれに合った希釈(きしゃく:薄めること)をします。
0.02%(200ppm:1%の原液20ml+水980ml)は、食器などの消毒やカーテン、ブラインドなどの家具の消毒に適しています。
塩素で消毒した後は、水拭きで塩素を取り除きます。
吐いたものや、その片付けに使用した紙や布は0.1%(1000ppm:1%の原液100ml+水900ml)の消毒液をかけて一緒に捨てます。オムツなども同じように消毒して捨てましょう。
ビニールの袋などに入れて固く口をしばり、さらに二重に袋に入れます。
衣類などで脱色・変色したら困るものは、お湯や熱湯で消毒します。
80℃で10分間、85℃で1分間キープしたら消毒できます。
お湯にものを入れると温度が下がります。
また、時間とともに冷めて温度が下がります。
80~85℃を下回ると効果がないので注意が必要です。
カーペットなどは、アイロンのスチームを1ヵ所に2分間当てると消毒することができます。
布団乾燥機は50℃で30分間かける必要があります。
また、次亜塩素酸ナトリウムの他に、人体に安全な二酸化塩素で消毒することもできます。
名前は似ていますが違うものです。
これは、企業の冷蔵庫内の消毒やプールの水の消毒にも使われているものです。
消臭効果も強力なので、動物病院でも多く使われています。
安全性と効果は確認されているのですが、医薬部外品などには指定されていないため、病院では使っていない場合が多いようです。
参考:東京都健康安全研究センター 家庭でできるノロウィルスの消毒法
http://www.tokyo-eiken.go.jp/assets/issue/health/webversion/web25images/norovirusdisinfection.pdf
うがいと手洗いが基本
消毒も重要なのですが、次亜塩素酸ナトリウムは人体に有害なので人間の消毒には使用できません。
取り扱う際にも手袋などで手を保護する必要があります。
ノロウィルスが付いた手で調理したり、トイレのドアノブや洗面所の蛇口を触ってウィルスが付いた手で触ったものを口に入れると、簡単に発症してしまいます。
手洗いせっけんには消毒作用はありません。
しかし、手に付いたウィルスを洗い流す効果が高いので、消毒以上の予防効果が期待できます。
「手から口へ」という感染経路を断つわけです。
特に、トイレの後や調理の前、食事の前には欠かさず念入りに手を洗いましょう。
症状がなくても感染していてウィルスを排出してしまう感染源になっている場合があります。
自覚症状のあるなしにかかわらず、流行する季節には慎重に手洗いする習慣をつけましょう。
身近に発症した人がいる場合は、特に注意が必要です。
ノロウィルスにアルコール消毒が効かない理由
ウィルスには、エンベロープという脂質でできた腕のようなものがあります。
このエンベロープを持つウィルスは、アルコールで脂質を溶かして簡単に破壊することができるのでアルコール消毒が有効です。
ところが、このエンベロープを持っていない構造をしているウィルスがいるのです。
出典:ヤクハンQ&A
http://www.yakuhan.co.jp/di/qa/pdf/Q65.pdf
このようなエンベロープを持たないウィルスには、アルコールの消毒効果は及びません。
ちなみに、大腸菌と比べるとウィルスってこんなに小さいのです↓これがたったの10個で感染するなんて、おそるべき力!
出典:5つの対策でノロウイルスをやっつけろ!ノロウイルス予防対策|sanitation|サラヤ株式会社 企業法人向け
まとめ
- 潜伏期間は1~2日
- 症状が治っても2週間~1ヵ月は便にウィルスが生きており人にうつす
- 予防の基本は、正しい手洗いとうがい
- 治療は出るものを出し切る
- 3日前後で自然に回復する(抗菌剤は使わない)
- 食事は食べなくてよいが水分は重要
- 衣類の消毒はブリーチか熱水消毒(80℃を10分間キープ)
- 乾燥器、スチームアイロンでも消毒できる
りょうこのつぶやきでした。
では、ごきげんよう。